タイトネック薬室に対する薬莢ネック厚の限界点
2003/09/28
日本ベンチレスト射撃協会
小澤常雄
1. 注意
@ 知的所有権
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A 利用に当たり
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2. 目的
ベンチレスト競技専用銃の薬室(6mmPPC,6mmBR)は、通常はタイトネックと成っている。当然の事で有るが、薬莢のネックターンを行なわなければ薬室に装填できない。
タイトネックの薬室では、安全面から最低でも0.001インチのクリアランスが必要と言われている。
日本ではネック厚は0.0085〜0.009インチの間が多いようであるが、一部に0.009インチ以上にネック厚を上げて、クリアランスを極小にする射手がいる。
ではクリアランスはどこまで極小に出来るか?
肉厚はどこまで厚く出来るのか?
この疑問の確認の為にテストを行なった。
3. 薬室のネック寸法の確認
テストを行なうに当たり、使用する銃身の薬室のネック寸法の確認の必要がある。
確認はセロフィーロで薬室の型取りをするか、段階的にネック厚を変えた薬莢でダミーを作り、装填して確認する二通りの方法が有る。
今回は段階的にネック厚を変えた薬莢でダミーを作る方法で確認した。
テスト銃身の薬室のネックサイズの刻印は0.262である。
確認用に用意した薬莢のネック厚は以下の通り。
番号 3 0.0093インチ (実包ネック径 計算値 0.2616)
番号 4 0.0094インチ (同上 0.2618)
番号 5 0.0095インチ (同上 0.2620)
番号 6 0.0096インチ (同上 0.2622)
番号 7 0.0097インチ (同上 0.2624)
以上の5個の薬莢でダミーを作り薬室に装填、ボルトが閉鎖可能かで寸法の確認をした。
番号3,4は問題なく閉鎖、番号5は硬い,番号6は閉鎖がかなり硬くなる。
番号7はマウスから0.05インチしか入らず閉鎖不能。
以上より、薬室のネックサイズは0.2622強と判断した。
テストはネック厚0.0090インチを基準としてネック厚を0.0001インチずつ段階的に上げ、0.0095インチを上限とした。
薬室に入る0.0096インチはテストしないのか? > 正直言って怖い、撃つ勇気はありません!
4. 実射
ネック厚0.0090インチから0.0095インチまで、0.0001インチずつネック厚を変えた薬莢を各5本作りテストした。各実包はランドタッチより0.005インチ下げて弾頭をシートしてある。
@ ファイヤーフォーミング
雷管はフェデラルマッチ(スモール)、火薬はハッジガン ベンチマークを22gr、弾頭はバーガーモリコート65grの組み合わせでファイヤーフォーミングを3回行なった。
A フルチャージ
3回のファイヤーフォーミング後に、火薬量を28.5grに上げて本射を行なった。
本射後の写真、左からネック厚0.0090インチ(番号0)〜0.0095インチ(番号5)
ネックの汚れに注目。番号0より番号2(ネック厚0.0092インチ)まではネックに汚れが有るが、番号3(0.0093インチ)より上は汚れが無い。
反動は番号0から番号5に行くに従い強くなる様な気がする(あくまで気です)
上の薬莢の雷管の状態。写真では良く判らないが、番号5はシールが怪しく、雷管周辺に汚れが有る。
撃針先端部の傷が打痕中心に残されている。テスト後に撃針先端は研磨を行なった。
各実包のグルーピィングは以下の通り。
番号0 6.33mm (基準となるネック厚0.009インチ)
番号1 7.79mm
番号2 7.42mm
番号3 6.87mm
番号4 4.46mm
番号5 11.70mm(フライヤーを除くと4.44mm)
ネックが厚くなるに従い、グルーピィングが良くなる様に見えますが、単なる偶然の結果とも言えます。
その日の射手の調子によりこの位はバラツキます。
ネックを厚くするとグルーピィングが小さくなる、と勘違いしないように!
5. 本射後の薬莢長
測定にはミツトヨのデジタルノギスを使用した。
@ ヘッドスペース(ヘッドスペースゲージ込みの薬莢長) 単位 インチ
|
番号0 |
番号1 |
番号2 |
番号3 |
番号4 |
番号5 |
1 |
1.5345 |
1.5335 |
1.5335 |
1.5340 |
1.5335 |
1.5335 |
2 |
1.5330 |
1.5350 |
1.5335 |
1.5345 |
1.5335 |
1.5335 |
3 |
1.5335 |
1.5340 |
1.5340 |
1.5335 |
1.5335 |
1.5335 |
4 |
1.5335 |
1.5335 |
1.5335 |
1.5335 |
1.5330 |
1.5335 |
5 |
1.5335 |
1.5335 |
1.5335 |
1.5330 |
1.5335 |
1.5335 |
平均値 |
1.5336 |
1.5339 |
1.5336 |
1.5337 |
1.5334 |
1.5335 |
表@は本射後の薬莢のヘッドスペース長である。
この数値には、測定に使用したヘッドスペースゲージの長さを含んでいる。
長さは凡そ“1.533x”と一定している。
測定値の小数点以下4桁目(x)は、測定器の精度の関係で“0”か“5”のどちらかが表示される。その為、4桁目は誤差が最大で0.0004インチ(?)ある可能性がある。
A 薬莢の全長 単位 インチ
|
番号0 |
番号1 |
番号2 |
番号3 |
番号4 |
番号5 |
1 |
1.4850 |
1.4840 |
1.4850 |
1.4845 |
1.4855 |
1.4875 |
2 |
1.4830 |
1.4845 |
1.4845 |
1.4850 |
1.4855 |
1.4886 |
3 |
1.4850 |
1.4780 |
1.4850 |
1.4845 |
1.4855 |
1.4880 |
4 |
1.4850 |
1.4750 |
1.4840 |
1.4865 |
1.4860 |
1.4870 |
5 |
1.4850 |
1.4785 |
1.4845 |
1.4855 |
1.4850 |
1.4870 |
平均値 |
1.4846 |
1.4800 |
1.4846 |
1.4852 |
1.4855 |
1.4876 |
表Aは本射後の薬莢全長である。
番号1を除き右肩上がりの傾向が有る。
グラフ@、A参照。
番号1のバラツキは原因が不明で有り、複数回の再測定でも同じ様な値が出る。
ただし延びの大きい2本はグラフ上で番号0〜番号5の線上には有る。
表Aで注目すべきは番号5の数値である。
他の物に比べて明らかに全長が延びている。
グラフ @
番号1はなぜか全長のバラツキが大きい。
グラフ A
5本の薬莢全長の平均値。
番号1の◆(平均値1)は5本の平均値。
番号1の■は伸びの大きい2本の平均値
ネックが厚くなるに従い全長が延びる傾向が有る。
グラフ B
番号5の◆はフライヤーを除外した数値。
ネックが厚いほうが、グルーピィングが良くなる様に見えるが偶然の結果かも?
6. 結果の考察
実射しての結果より。
薬室のネックサイズの表示が0.262インチでも、実包のネックサイズが0.2622インチ(ネック厚 0.0096インチ)までは、装填可能であったがボルト閉鎖はかなり硬い。
標示が0.262でも、実寸はホンの少し大きいようである。
おそらく公差は −0、+0.0002位 ではないかと思う。
どの実包も発射時に雷管突破は起きない。
実包ネックサイズ0.2620インチ(ネック厚 0.0095インチ)は、雷管周辺に異常腔圧の兆候である汚れが少しでは有るが発生する。
ネック厚を変えても薬莢のヘッドスペースに変化は無い。
薬莢の全長は肉厚が厚くなるに従い延びる傾向がある(腔圧が高くなる)。
ネック厚 0.0095インチ は伸びが他のものに比較して大きい。
グルーピィングは、ネックが厚いほうが一見して小さくなるように見えるが、射手の調子により変化するので一概に良くなるとは判断できない。
これらより、表示0.2622強の薬室ネック(表示0.262)の場合、クリアランスが0.0004インチ(片側で0.0002)よりも小さくなると、異常腔圧の兆候が発生する。
薬莢のネック厚を上げる場合には、薬室のネック実寸に対し少なくても “0.0004インチ” のクリアランスを取らないと異常腔圧に対する安全が確保できない可能性が高い。
なを、クリアランスを “0.0004インチ” 取った場合でも、銃身の状態、気象条件等により異常腔圧が発生する可能性は有るので、クリアランスを小さくする場合は充分な注意が必要である。
以上。
追記
弾速および薬莢の使用限界についてはいずれ追試を行なう予定である。